善福寺の杖イチョウ|都内のイチョウで最大かつ最高齢だ!

麻布山善福寺の杖イチョウ

『東京都の木』はイチョウ、1966年に決められた。ソメイヨシノとどっちかとなり、ハガキによる投票で5割近い支持で選ばれた。明治神宮外苑、渋谷の絵画館前など都内にはあちこちにイチョウの名所が多い。

港区の麻布山善福寺にイチョウがある。樹齢750年、何本もの木がひとまとまりになっている幹周りは10.4メートルと太く、これが墓地の一角に鎮座する姿はまことに壮観、都内のイチョウで最大かつ最高齢だ。「杖(つえ)イチョウ」と名付けられたこのイチョウ、
なんと一本の杖が成長したものだとの伝説がある。浄土真宗の宗祖、親鸞が流罪先の許されて京に戻る途中にこの寺に立ち寄った。去るときに「念仏の教えが今後、栄えていくように」という願いを込めて持っていた杖を地面に差した、その杖が育った、と。

このイチョウは戦時中の空襲で幹の半分が焼けたが、さいわい辺りの豊富な地下水を吸い上げて生き返った。

杖イチョウには巨木ながら異名がもう一つある。太い氷柱のような瘤状のものが枝から何本も垂れ下がっているのだ。長いもので1メートルも越える。それで「逆さイチョウ」とも呼ばれている。東京大大学院の塚谷裕一教授(植物学)によれば、この瘤は乳房に似ていることから「乳(ちち)」といい、瘤は先端が根にも枝葉にも変わるという、古い時代の植物の特性を残しており、祖先の器官の名残かもしれまないという。

乳と云うことから、こうしたイチョウは母乳の出ががよくなるように、と各地で信仰された。善福寺の杖イチョウの前にも、その昔願掛けに通う母親の姿があったのだろう。

ちなみに、イチョウは漢字で銀杏と書き、これを例の日本誌の著者エンゲルベルト・ケンペルが『廻国奇観 (Amoenitatum exoticarum)』(1712年)で日本のイチョウを紹介、ケンペルが銀杏(ギンコウ)をGingkoと書くべきところを Ginkgoと記した。この綴りが引き継がれて、ゲーテも『西東詩集』(1819年)で Ginkgo の名を使っているのが面白い。

英語ではGinkgoが常用だが、一つ小粋な訳語もある。maidenhair treeというのだが、これは「娘 (maiden) の毛の木」の意味で、葉の形が女性の陰毛が生えた部分を前から見た形に似ているために思い付いた名だ。

いまは秋、紅葉の真っ盛りだ。イチョウの黄色が映える頃、もし上京される折りがあれば、ぜひ港区の麻布山善福寺を訪れられるといい。

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